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深宇宙追跡技術グループ | 宇宙科学研究所 - JAXA 宇宙科学研究所

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深宇宙追跡技術グループは深宇宙機の追跡及び軌道決定に関する地上系技術の開発と、深宇宙プロジェクト(プリプロジェクトなども含む)に対する技術支援を行うグループです。グループ員は、深宇宙通信や深宇宙軌道決定が専門の工学系研究者と、電波天文学や電波科学が専門の理学系研究者により構成されています。本稿ではこれまでの活動の例と今後のビジョンについてご紹介します。

日本における深宇宙軌道決定ソフトウェアの開発は、1985年に打ち上げられた日本初の深宇宙機「さきがけ」に端を発します。1960 ~ 70年代にNASA/JPLの主任研究員としてバイキング・ボイジャー計画の軌道決定を担当された西村敏充先生が1981年に宇宙科学研究所に着任されました。西村先生の主導で富士通の協力も得て5年間の期間をかけて軌道決定ソフトウェア「I SSOP*1」を開発し、「さきがけ」の運用に使用しました。

その後深宇宙機の打上げの度に軌道決定の機能は強化され、現在に至るまでJAXAの深宇宙軌道決定基盤ソフトウェアとして「ISSOP」の開発が継続しています。最先端の軌道決定技術を先行的に実証する目的で、JAXAインハウスの軌道決定ソフトウェア「DMOODS*2」の開発が2010年から始まりました。IKAROSでは、電波干渉技術を用いた高精度軌道決定手法であるDDOR*3機能を日本で初めて実装し、本ソフトウェアでその性能を実証しました。実証されたDDOR観測モデルは「はやぶさ2」打上げに向けて「ISSOP」に技術移転され、イオンエンジン運転中の軌道決定や、リュウグウ到着前の精密誘導など、「はやぶさ2」の運用で効果を発揮しました。リュウグウ滞在中にはLIDARと光学観測を用いて小惑星の軌道・重力場と探査機の軌道を同時推定する機能を「DMOODS」で実証しました。この機能は「火星衛星探査計画(MMX)」に向けて「ISSOP」に実装される事になっており、フォボスの近傍運用で利用される予定です。この例は、JAXAにおける先行的インハウス開発と、それを産業界に展開し安定的な定常運用に繋げるループの有効性を示す好例であると言えます。今後は「DMOODS」を国内外の深宇宙ユーザーに公開し利用拡大を図ることにより、NASA/JPLのような重層的な軌道決定コミュニティを日本でも育成することを目標としています。

深宇宙地上局における送受信系、電波記録系の開発も本グループが貢献する活動の一つです。美笹深宇宙探査用地上局開発プロジェクト(GREAT)では、本グループのメンバーがKa帯低雑音受信系の開発において主導的役割を果たしました。メーカー主導で開発が行われた送受信モデムや固体電力増幅装置についても、JAXA側インテグの立場でプロジェクトに貢献しました。高精度な深宇宙軌道決定実現のためには地上局アンテナ位置を数cmの精度で求める必要があります。電波天文観測用に開発されたIF信号系とDDOR計測用に開発されたデジタルバックエンドシステムを組み合わせて、アンテナ位置計測のための測地VLBIを行うシステムを整備しました。その後測地VLBIを定期的に実施する事により、高い地上局位置精度が維持されています。開発されたシステムを国内研究者が電波天文学・電波科学観測に活用する体制も整えられており、科学成果の創出につながっています。現在のシステムは受信機能に特化していますが、今後送信機能も付加し、衛星のテレメトリ・コマンド運用のモデム機能を後段の汎用PCでソフトウェア処理により実現するシステムの開発を目標にしています。

追跡ネットワーク技術センターや国際宇宙探査センターと協力の上、当グループが主導して、JAXA深宇宙ネットワークの将来構想の検討が行われています。2020年代の深宇宙ユーザー動向に基づき地上局の運用負荷を調査したところ、少なくても2028年度まで臼田局を延命しないと要求を満たせないことが明らかになりつつあります。今後延命に向けた具体策の検討を加速する予定です。

海外深宇宙局ネットワークとの国際協力体制の構築も本グループの役割の一つです。JAXA地上局運用の余剰時間を海外地上局との間でバーターにより融通しあう協定を昨年度までにNASAとESAとの間で締結しました。世界の深宇宙局の局配置を俯瞰すると、東アジアに位置する日本は地理的にユニークな価値を有しています。例えば過去には火星探査機InSightの火星到着時に日本局によるDDOR計測が必要であったため協力要請(その後、打上げ延期により要請はキャンセル)があったり、今年打上げのNASAの新型宇宙船ORIONの地球帰還時に日本局での3-wayドップラ受信が求められていたりする事例が挙げられます。今年度も様々な探査機の運用の打診が内々に届いていますが、その際に日本側で迅速に対応できる体制の構築が課題になっています。どのような探査機でも対応できる仮想汎用衛星を局運用データベースに設定する対策を検討しています。

図

深宇宙追跡技術グループと他の組織・部署との関係。

*1 ISSOP:ISAS Orbit determination Program
*2 DMOODS: Deep-space Multi-Object Orbit Determination System
*3 DDOR:Delta Differential One-Way Ranging

【 ISASニュース 2022年8月号(No.497) 掲載】

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